歩く 3

  • 2017.05.05 Friday
  • 19:09

 うだるような暑さの中、私と妻は歩いていました。一本道には私たち以外の人影はありません。両脇の古民家群に住んでいる人たちも家の中で昼寝でしょうか。蝉の声が聞こえるばかりです。観光地とはいえ確かに誰もいないのです。日照りの中に私達だけが取り残されたような感覚になります。誰もいない古い町並みは、寂しいような懐かしいような、言葉にできない感覚をくれました。少しだけ「怖いなぁ」と思ったことも覚えています。もう何年も前の事です。場所は海野宿、夏の平日、午後2時過ぎです。

 仕事が休みだったので小諸に来てみました。理由は「でっかいカツ丼を食べる」ためです。しかしお目当てのお店は休みでした。その店のカツ丼は美味しくて、でかくて、安くて、もう「カツ丼」なんです。でも休みです。仕方がなく「海野宿でも寄って、そこいら辺りで飯食って帰るか」となりました。

 誰もいません。上述のように一本道です。進んで、進んで、で、引き返します。派手な土産物屋もこれみよがしな飲食店もありません。ただ古い街。帰ろうか、と歩いて行きます。あとすこしで駐車場です。と、妻が言いました。「ねぇ、あそこの路地裏から出てきた人、ほら見てよ、『金田一耕助』みたいな恰好してるよ」。見てみました。袴を着て、暑そうな顔に不機嫌さを浮かべ、隣の女性に日傘を持たせています。んー、何だ、怪しい奴だ。

 

 そばまで来て、すれ違う前、少し身構えました。訳判らん奴がいる世間様ですから。すれ違う瞬間です。腰が抜けそうになりました。だって「金田一耕助」なんですもの。もう一度書きますよ、だって「金田一耕助」なんですもの。撮影で信州に来ていた「金田一耕助」なんですもの。くどいですが、もう一度書きますよ。

「金田一耕助の恰好をした石坂浩二の金田一耕助」なんですもの。

私は映画が好きです。カウチポテトで。映画館もイイですが、部屋で見る映画が好きです。最近の映画館は嫌いです。それはともかく映画、特に邦画が好きです。何しろ「男はつらいよ」と「金田一耕助シリーズ」はたまりません。この当時の「角川映画」はたまりません。「金田一耕助」はいろいろな役者さんが演じています。ホントに沢山の俳優さんが演じていますがやはり「石坂浩二」でしょう。豊川悦司や鹿賀丈史もなかなかイイ。渥美清はやはり「寅さん」、西田敏行や中尾彬、高倉健さんは少し違う気がする。

 とにかく石坂金田一が目の前に。あぁ、あぁー。石坂金田一は暑さに不機嫌さを浮かべながら通り過ぎていきます。想像してください。自分の好きな映画の主人公が、映画そのままの恰好で、自分達とその人以外に居ない状況で歩いていたんですよ。「写真を」と思いましたが当時の私や妻の携帯電話に写真機能は無く、あまりの不機嫌そうな石坂金田一の顔に「握手を」とお願いもできず、ただ単にすれ違うだけです。あぁー、「犬神家の一族」が、「悪魔の手毬歌」が、「獄門島」や「病院坂の首縊りの家」が通り過ぎていく。何もできずに通り過ぎていく。あぁー。妻も私も金田一耕助に出会った衝撃で放心状態になりました。当時子供がいなかったので、暇さえあれば映画を見ていました。その中でも、趣味の違う私達の少ない共通嗜好で「金田一耕助」がありました。DVD買いました。何度も見ました。明治大正昭和の混乱期、怨念、旧財閥、人間の業の深さ。字幕や音楽の緊迫感、出演者の豪華さ。小説本も購入しましたが、やはり巨匠「市川崑」の映像はしびれました。それはともかく、「石坂金田一」はまたもやどこかの路地に曲がってしまいました。もう出会えない。その後に市川崑監督がお亡くなりになり、あの映像は、あの世界観はもう無くなった。二度と出会えない、石坂金田一には。悲しい。

 この出来事の後から私は常にデジタルカメラを所持しています。もしかしたら、もしかしたら、「石坂金田一にまた会えるかもしれない」と。まだ願いはかなっていませんが。もちろんこの時に撮影されていたリメイク版「犬神家の一族」もDVDで購入しました。それを見る度に「このシーンの撮影後に俺達は会った」とか何とか言っています。ホントは「このシーンの撮影前に俺達は会った」が正解かも知れませんが。

 ねっ、「歩く」と良いことがあるでしょう。

 

 余談

 市川崑監督作品ではないのですが、鹿賀丈史が金田一を演じた「悪霊島」は映画館で観ました。当時小学6年生でした。なぜか高崎市の隣、前橋市の映画館まで友人と2人で見に行きました。怖かった。当時の私や友人には怖かった。ビートルズの「Let It Be」がエンディングで流れて、「怖い歌だ、『ビートルズ』は。聴くなら『ズートルビー』にしよう」と思ったものです。そんで何故か、前橋から高崎まで歩いて帰りました。約12辧2晋里世蹐ΑH修蕕鵝B進怖くて、「電車に乗ることを忘れた」のでしょう。ほらほら、また「歩いた」。

 

 暇なアナタ、「金田一耕助シリーズ」を見てください。あっ、テレビシリーズはやめた方がイイですよ、個人的意見ですが。「ドラゴンアッシュ父ちゃん」とか「アイドルグループの一員」とかが金田一やってて、もうねっ、時間の無駄。重ね重ねですが豊川悦司の「金田一」は結構イイですが。豊川悦司はイイですよ、他の映画でも。

 

 

 

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