奇人 変人 4

  • 2019.10.07 Monday
  • 20:23

 私の飲酒友達にIさんという方がいます。飲酒友達といっても私より5歳ほど年上の先輩です。車と酒をこよなく愛する体と声のデカい男です(私も声がデカいのですが、身長が高いIさんの声のほうがより『デカい感じ』がします)。Iさんは最初はマルフジ歯科医院の患者さんだったのですが(今でも定期検診に来てくれています)、ある時「よぉ先生よぉ、今度酒呑もうよ、呑もうよねぇ、お酒をさぁ」と誘ってくださりました。断る理由がまるで無いので、お互いの住処が近いこともあり、一緒に近所の焼き鳥屋さんへ出向きました。その店で呑んでは語り語っては呑んで、やはり楽しく泥酔しました。楽しかったので(Iさんの仕事が立て込んでいなければ)その後は月に1回ほど近所の酒場にて呑んでは語り語っては呑むようになりました。

 

 そのIさんですが、何と言いますか、年上の方に失礼ですが、本当に愉快な「困ったさん」です。

 

 先日もそうでした。IT推進室長と私はこれまた近所の蕎麦屋で飲酒しておりました。「Iさんも呼ぼうよ」で、私はIさんに電話しました。Iさんは「オウッ、すぐ行くわ、オウッ」と言ってくれます。IT推進室長と私はざる蕎麦と麦酒でIさんの到着を待ちます。待つこと10分、デカい体のIさんがせまい蕎麦屋の入り口をくぐってきました。Iさんはデカい声で「オウッ、呑んでるかい、オウッ」と言いながら私の隣にドカンと着席して、IT推進室長に「久しぶりじゃん、どうよどうよ、ドハハッ」と笑顔で挨拶して、タバコに火をつけ、卓上の「店員さん呼び出しボタン」を押します。アルバイトの若い女性店員さんがやってきて笑顔で訊いてくれます、「ご注文ですか」。Iさんは言いました。サラッと言いました。「ざる蕎麦100人前と麦酒ねっ」。そして何もなかったように私達に向かって、「当たり前だろ」みたいな顔で、なおかつ「普通だろ」みたいな口調で、「今日は暑かったなっ、やべーよ、麦酒呑みてえよ」と言います。そのわきでは困った顔になった店員さんが立ったままです。すでにIT推進室長と車の話に夢中なIさんにとっては「注文は済んだ」ようです。店員さんのほうを見向きもしません。仕方がないので私が「たぶんざる蕎麦1人前と麦酒でいいと思います」と店員さんに伝えました。店員さんは「困ったなぁ」という顔のままで「はい」と言って奥へと去りました。この店員さんは少しばかり知り合いなので気まずかったです。数分後に届いたビールで乾杯して、遅れてきた蕎麦を食して、しかし何事も起こっていない顔のIさんはさらに残った麦酒を「ガバンッ」と呑んで、なぜか環境問題について論じ始めました。「最近の新聞読んだかいっ、あのさぁ、ほら、どこだっけか、あぁースウェーデンだっ、あの少女っ、知ってるだろっ、環境問題に胸を痛めていろいろ行動している女の子だよっ」。私もIT推進室長もうなずきました、「最近よく見かけますねぇ。若いのに立派に意見を言って、行動して、まったく感心しますねぇ」と。Iさんは「ほんとにすげぇよ、若いのにちゃんと自分の意見を言ってさぁ、俺たちも見習うべきじゃねっ、そうだろっ、見習おうよ、若ぇモンの言うことに耳を傾けようよ、これからの時代は若ぇモンの時代だよ、彼らの意見もちゃんと聞くべきだよ」。私もIT推進室長もうなずきました。Iさんは「ホントちゃんとしようよ、若ぇモンに恥ずかしくないようにしようよ、これからは環境問題だよ、自分が15とか16くらいの時を思い出すとホント恥ずかしいよっ、あっ、やべっ、麦酒が無くなったわい、日本酒を呑もおーっと」とか言いながら「店員さん呼び出しボタン」を押しました。先ほどと同じ店員さんが来てくれて「ご注文をお伺いします」と言いました。Iさんは言いました。サラッと言いました。「ざる蕎麦100人前と日本酒ねっ」。まさか2回も「100人前注文」をするとは思わなかったので私は度肝を抜かれました。店員さんもまたもや「ほんとにほんとに困ったなぁ」という顔です。しかしIさんはすでにIT推進室長と熱い「環境問題」論議に戻っています。仕方がないので私が「たぶん日本酒だけでいいと思います」と店員さんに伝えました。店員さんは奥に去りました。心なしか疲れている後ろ姿でした。すぐさま日本酒が到着します。「ガバンッ」とそれを呑み干したIさんは「ウマイッ」と唸り、そしてまた環境問題に会話を戻しました。しかしなぜか、なぜか、時間経過とともに論調がずれていきます。「なんつーかさぁ、若ぇモンが偉そうに『あれもこれもいけません』とか言って、大人にタメ口きいて、『こうしろああしろ』とか言っちゃってさぁ、年下のくせに、ナンもできねぇくせに威張るんじゃねぇよ、アイツらは黙って俺達大人の意見を聞いてりゃいいんだよなっ」。5分前と同じ人間とは思えません。すっかり「何を言おうが若いだけでダメ、若い奴がまともなことを言うのを聞いたことがない」な口調です。ある意味気持ちのイイ「突き抜けっぷり」です。酔った私が「若者がモノを言うことが、それが時代の真価と進化を象徴するのではないでしょうか」とかなんとか言った時には、Iさんは殺気を放ちながら「はぁーっ、はぁーっ、はははーっ、何言ってんのかわかりませんねっ」って怒られました。すいません。そんな感じでその夜は更けました。

 

 こんなこともありました。私とIさんの2人は夜更けの路地裏を歩いていました。ふと横を見るとかなりイイ感じの呑み屋さんがありました。「ここに入りましょう」との私の提案を受け入れてくれたIさんと店内に入ります。店内はカウンター席のみで、8人ほど座れるでしょうか。品の良い60代の女将さん一人でやっている洒落て落ち着いた和風の酒場です。客は私達2人だけでした。麦酒と肴を2,3品注文しました。安くておいしい。私は女将さんに「ここはいいお店ですね、静かでゆっくりで落ち着きます」と言いました。女将さんは「ありがとうございます。ここは落ち着いて静かに呑める店をめざしているので気が向いたらまたいらしてくださいね」と言ってくれました。「また来よう」と考えていた私の横でIさんがほんとにデカい声で、ほんとにほんとにデカい声で、「ここはいい店だねっ、いいよっ、イイよっ、ホントイイよっ」とシャウトしました。静かな店なので余計にツイストエンドシャウトでした。一瞬で「静かに呑めない店」になりました。

 

 こんなこともありました。思い出します。やはり私とIさんの2人は別の夜更けの路地裏を歩いていました。暖簾と赤提灯が揺れています。「ここに入りましょう」との私の提案を受け入れてくれたIさんと店内に入ります。店内はかなり広く、そして混雑していました。品書きは美味しそうなものばかりならんでいます。店長と店員の女性の2人でやっているようです。着席するとすぐに店員の女性が「Iさん久しぶりじゃん、お元気だったかしら」と言います。Iさんはほんとに顔が広い。5軒の店に入ると4軒の店で「Iさん久しぶり」という声が聞こえます。それはともかくその店でも店員さんが「注文は何にしましょう」と聞いてくれた際にIさんは「ウマいのはなによぉ、ウマいの出してよぉ」と甲高く言います。店員さんが「今日は良いタケノコが有るわよ」と教えてくれました。Iさんは言いました。サラッと言いました。「タケノコあるだけ全部と麦酒」。Iさんの顔見知りであるらしい店員さんはサラッと返しました、「タケノコと麦酒ねっ」。Iさんは普通の顔で「うん」と言いました。それが普通な、そんな会話もあるのですね。この時のことをちゃんと覚えていれば上述の蕎麦屋さんの件も「流せた」でしょうに。美味しいタケノコを食した私達は会計をすることにしました。「おあいそをお願い。ほんとタケノコウマかったわい、ほんとウマかったから無料にしてくれるとイイ思い出になるわい」、Iさんがレジ前で言います。店員さんは「美味しかったんなら払っていってね」と笑顔で言いました。うーん、酒場の会話は奥が深い。

 

 まだまだこんなこともありました。2人で泥酔して深夜の通りを歩いていました。T字路に差し掛かると「一時停止」を無視したタクシーが横断する私達のすれすれで止まりました。危ない。深夜だから運転手さんも油断していたんでしょう。ヒヤッとした私の横でIさんが怒鳴ります、「おいっ、オメェよぉ、『一時停止』って書いてあるだろっ、なんだよその運転わッ、殺す気か、この俺をっ、死ぬんか俺はっ」。デカい声で怒鳴るデカい男に恐怖を感じたであろう運転手さんは謝りもせずに車を発車させます。さぞや怖かったでしょう。なおもIさんは叫びます、「コラッ、待てや、謝れやっ、逃げんなや、乗車拒否かいっ、乗っけてちょうだいなオウチまでッ」。タクシーは暗闇に消えました。「乗車拒否」されますよ、それじゃぁ。

 

 勉強になることもあります。

 話は冒頭の「ざる蕎麦100人前蕎麦屋さん」での会計時に戻ります。伝票を持ちレジを打つのは30代はじめくらいの美人店員さんです。ほんとにキレイな女性でした。ふらつきながら会計を待つ私の横でやはりふらつくIさんがデカい声でその店員さんに言いました。「アンタさぁ、ほんとアンタさぁ、ほんとキレイだねぇ、イヤッホントびっくりしたわぁ、アンタキレイだねぇ、また来るわぁ、アンタを見にさぁ」。これを「当たり前だろ」みたいな顔で、なおかつ「普通だろ」みたいな口調で言うのです。「口説く」口調でもなく、何かを「お願いする」でもなく、「キレイな女性だからキレイと言っただけ」なようなのです。素晴らしい。美しいものに無感動になりがちな今日この頃、胸の内をさらけ出すことを、綺麗なものは綺麗だと言える素直な心を、腹立つものは腹立つと言える正直な心を、忘れかけていた己の感情に従う心を、理不尽であっても己が正しいと信じる心を、嫌なものは嫌なんですな心を、泥酔する中でもIさんに思い出させていただきました。うーん、もっと昔にIさんと知り合って、そんで見習って、キレイな女性に会うたびに「アンタほんとにキレイだねぇ」って言葉を素直に言えるようになっていたならば、もう少し人生が華やかだったかもしれないなぁ。

 

 追記

 Iさんが突然、「俺さぁ、映画の『小さな恋のメロディー』見ると泣けるんだよなぁ」と言ったことがありました。意外な一面です。これまたこの話の冒頭に出てきて、今やすっかりお邪魔するようになった「近所の焼き鳥屋さん」で突然言い出したのです。あの映画、私も泣けます。焼き鳥屋のマスターが「どんな映画なんですか、その映画は」と尋ねると、Iさんは怒りながら「おめぇよぉ、あの映画見てないんかい、話にならんわい」と言いました。苦笑いするマスターに向かってIさんは続けます。「最後トロッコだよ、トロッコ。判るかいなっ、ロマンチックにさぁ、トロッコでどっか行っちゃうんだよ、それが最後だよ、トロッコ、トロッコ」。判らないでしょう、それじゃ。

 

 愉快な先輩です。これからもお願いします。

 

 

            

           トロッコだよ、トロッコ                                         

 

 

 

 

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